5月26日(火)

男は空気を恐れている
酸素はいい 人工呼吸器の管の先から
直接肺に吸い込める酸素なら
大気もいい エベレストの山頂に
かかってる薄いのでも
だが空気はだめだ 疫病すら
包みこんでしまうこの国の真綿の空気は

男は空気を憎んでいる
空(くう)になら身を捧げたいと思っているのに
この国の空気は空っぽにはほど遠く
ぎっしり気分が詰まっている
ねっとり肌に纏いつく
全員で吸っては吐き出し吐いては吸いこみ
それでいて目だけは合わせない

腫瘍は69ミリに達しているそうだ
それでも本人は気づかないものなのかと男は驚く
時間の問題ですと医師が言う
閉ざされた空間が内側から炸裂する光景を
抗体のように肚に収めて

男は空気に包まれている
こんな時こそ人々は言葉を求めています……?
言葉とウィルスの見分けがつかない
最後まで営業し続けたパチンコ屋に二拝二拍手一拝
窓際に聳えるペーパータオルの白い円柱の
表面の凹凸が翳に沈むまで
彼の手は無闇に宙を掻いている

横浜・久保山
四元康祐