5月15日(金)

どうして欧米でそれは疎んじられたのか。
カタカナ語がないからさ。
オペラ座の怪人の仮面も
どろぼうの覆面も
ぜんぶ maskだもの、
かけたくなかったんだよねぇ、マスクだって。

どうしてこの島でおかみのそれはつまずくのか。
じつは仮面だからさ。
おまつりのお面も
にんじゃの覆面も
じぶんの キモチだもの、
かけたくないよねぇ、アベノマスクなんて。

お能に
癋見(べしみ)という面があるんだって。
口を固くむすんで何も言わない仮面だって。
折口信夫によると
それは、しじまの面、
かみに従わない沈黙の精霊の顔。

  ねぇ、
 ねぇ、
god(神)も、ruler(支配者)も
ひとしく「(お)かみ」と呼んじゃったニッポンの土俗感覚、
えらい と思わない?
何も言わせない覆面なんか
もらいたくないさ、
おかみさまに

じぶんでマスクする、
       わたしたちは
手作りで、闇市で、ネットオークションで
  宅急便のおじさんも、
 なわとびしてるよっちゃんも、
陣痛がはじまったおかあさんも、
マスクをしている
せかいじゅうの
おどろく数が、

演じてる、
仮面をつけて
その精霊を、

へのへのもへじ、
胸のうちは。

神奈川・横浜
新井高子