5月3日(日)

他のみんなが日記をつけてくれるので
僕は安心して
日々の網目をすり抜けてゆく極微の切れ端にかまっていられる

母の眼の縁ぎりぎりに
ステロイドの軟膏を擦りこむ指の腹の感触や
腹部エコー検査報告書に印刷された
父の胆管の艶やかに濡れたモノクロームの光沢なんかに

交番の入口の「本日の交通事故」によれば
昨日県下で死亡したのは一名
こんな時に交通事故で死ぬなんて間が抜けていると思うけど
それを言うならすべての死は底が抜けていて
死を数えあげる生こそ愚の骨頂

見えないジャイアント・パンダに引かれて
横断歩道を渡ってゆけば
王様ペンギンを二羽連ねたあの子が目だけ光らせて立っている
社会的距離とやらに隔てられると
なんだかいつもよりも色っぽく見えてくるのが不思議

みんなが生き延びることに必死でいてくれるので
僕は安心して
日々の連なりからはみ出てしまう巨大なものを眺めていられる

隣の婆さんがついにホームへ引っ越す朝がやってきて
軽トラックが坂の下へと沈んでいった
その後にぽかーんと残された
空の青さなんかを

横浜にて
四元康祐