4月20日(月)

雨にとざされていると
この林は
ただでさえ最近
おとぎ話めいてきたというのに
なおさら
木こそが世界の霊長であるという
彼らの優しい確信を伝えてくる

中に入ってしまえば
それはもうおとぎ話ではない
ほんとうのこと

切り株のあかるい色をした切り口から
紫陽花のやわらかな若葉から
人が退いた分だけ
見たこともない顔をあらわした雀たちから
はじまっているのは
まちわびていた
ほんとうのこと

ノアの方舟に
窓はあったのだろうか
人も動物も
みずみずしい目をみはり
雨を眺めながら
洪水の後を待ったのだろうか

今日はいつか
古代と呼ばれるようになる

遺跡ははじめから遺跡ではない
この早く来た初夏の緑色世界の中で
新しいほんとうが生まれようとしていることを
わたしはおぼえていられるだろうか

千葉・市川
柏木麻里